第6回京都大学附置研究所・センターシンポジウム
「京都からの提言-21世紀の日本を考える」
岩下 明裕 (北海道大学スラブ研究センター 教授)
国境から世界を包囲する
昨今、尖閣や北方領土などでセンセーショナルな諸問題が注目を浴びている。メディアも政治家も、中国やロシアの行動を非難する政治的な言辞、例えば「固有の領土」「不法占拠」をさも当たり前のように使う。だが、「固有」とは何か、なぜ「不法」なのか、誰も説明しようとはしない。
国境地域の現実をなにも知らないままに、ロマンと夢想のなかで「我が領土を守れ」と叫ぶ街の人々。身勝手なナショナリズムに、国境地域からいま「叛乱」が起きつつある。国境はナショナリズムを信じない。
いま、世界の国境地域で何が起きているのか、ボーダーリテラシー(国境を知ること)の涵養が必要だ。ユーラシアや世界の「国境」の現場を旅しよう。そして、なぜメドベージェフ大統領が国後島訪れたのか、尖閣沖の漁船衝突事件でなぜあれほど中国が強硬な態度にでたのか、読み解こう。みなさんの多くは、中国とロシアが共謀して日本に圧力をかけていると考えているに違いない。だが、事実は逆なのだ。日本がロシアと中国を追い込んでおり、米国は攻撃的な日本をみて困惑している。
ボーダースタディーズ(境界研究)の視座は、私たちが見えなかった世界の実像を浮き彫りにしてくれる。