第103回 京都大学丸の内セミナー


海洋生物の防衛戦略 — ヤドカリ類を例として

平成31年2月1日(金)18:00より

  朝倉 彰 (フィールド科学教育研究センター教授,
                     瀬戸臨海実験所長)





 海洋には極めて多様な生物が棲息し、その種数は最大推定で1億種を越えるとされて、軟体動物が1番目、甲殻類を含む節足動物が2番目に多くの種が知られる。その中で軟体動物の貝殻を利用するヤドカリ類という甲殻類は、エビやカニを含む十脚甲殻類の仲間である。本講演ではヤドカリ類の天敵に対する特殊な防衛行動を紹介する。

 巻貝が死ぬと中が空洞になり、それをシェルターとして利用するのがヤドカリである。この空殻は、フグなどの魚、タコ、ワタリガニなどのカニ類からヤドカリを守る。また巻貝の中に海水が保たれて外界とは異なる環境を提供し、水温の変化(潮の満ち引きなどの時)、水質の変化(塩分濃度、降雨、pH)、乾燥(潮が引いた時)等に抵抗力が増す働きをする。

 ヤドカリには6つの科がある。ツノガイヤドカリ科は最も原始的で、ヤドカリの祖先であるエビに良く似た左右相称の体をしている。軟体動物のツノガイの空殻や海に流出した木等の植物、軽石にも入る。ヤドカリ科は潮間帯〜浅海域に生息し、主として巻貝の貝殻を利用するが石を利用する種もいる。貝殻にイソギンチャクをつけている種も多数いて、その刺胞毒は、ヤドカリの天敵であるタコや魚からヤドカリを守る。イソギンチャクはヤドカリの食べかすなどの、おこぼれを頂戴する共生関係にある。ホンヤドカリ科も潮間帯から浅海域に生息し、巻貝の貝殻のほか、木、カイメン、二枚貝の半片、スナギンチャクの群体などを利用する。オカヤドカリ科は陸上性で、カタツムリの貝殻などを背負うが、住宅難で洗剤のキャップなども使う。オキヤドカリ科は深海性で刺胞動物の群体を背負う。





Fig. 1.  Dardanus robustus Asakura, 2006.    小笠原諸島に産する。(写真 立川浩之)







Fig. 2.  Dardanus longior Asakura, 2006.  フレンチポリネシアに産する。(写真 ScottGodwin






Fig. 3.   Pagurus insulae Asakura, 1991.  小笠原諸島に産する。






Fig. 4.   Pseudopaguristes shidarai Asakura, 2004 沖縄に産する。









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