第77回 京都大学丸の内セミナー

平成28年12月2日(金)18:00より



がんの悪性化と治療抵抗性を左右する
「腫瘍内微小環境」

原田 浩 (放射線生物研究センター 教授)






古代ギリシャの医師・ヒポクラテス(紀元前460頃~紀元前370年頃)が乳がんの外科手術を行ったのは、紀元前400年ごろのことと言われています。それから2,400年あまりが経ちましたが、人類はがんを掌握できたでしょうか? がん研究の成果によって、ある種のがんを完治させることは可能になりましたが、大半のがんに対しては未だ決定打となる治療法は確立されていません。この状況を打破するためには、がん細胞が放射線治療や化学療法(抗がん剤)に抵抗性を示し、再発する理由を解明することが肝要です。


 腫瘍組織(がんの塊)はがん細胞だけでできている訳ではなく、“血管を形作る細胞”や“腫瘍組織を支える繊維状の細胞”、さらには“炎症部位に集まってくる炎症系細胞”や“免疫担当細胞”などが存在し、複雑な社会を形成しています(図1)。また、腫瘍内を走る血管からの距離に応じて、各がん細胞が得られる酸素や栄養の量が異なりますので、1つの腫瘍組織の中であっても場所によって栄養環境が多様であることが分かっています(図2)。そして近年のがん研究によって、「こういった腫瘍組織内の複雑性・多様性が、各がん細胞の個性を生み、結果として一部のがん細胞が放射線や抗がん剤への抵抗性を獲得すること」が分かってきました(図2)。本セミナーでは腫瘍組織内の社会と微小環境にフォーカスを当て、「がんが治療抵抗性を獲得する巧妙なしくみ」と「新たな治療法の確立に向けた私達の取り組み」をご紹介したいと思います。








図1.腫瘍組織の社会性.

悪性腫瘍(がん)はがん細胞だけでなく様々な細胞で構成されている。
Hanahan& Weinberg. Cell. 144:646-74. 2011より改編。






図2.腫瘍内微小環境の多様性と治療抵抗性.

血管(青)から離れた領域には十分な酸素が行きわたらない低酸素領域(緑)が存在し、
がん細胞が放射線治療によるダメージ(赤)を受けにくいことが見て取れる。





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