第45回品川セミナー
平成26年2月7日(金) 17:30より
高田 昌彦(霊長類研究所副所長・教授)
霊長類の「運動する脳」
我々が運動するとき、脳のなかのどの場所が働くのでしょうか? 17世紀になって初めて、大脳に運動機能と密接に関係した領域が存在することが提唱され、19世紀後半には、弱い電気刺激を加えたときに運動が誘発される場所が大脳皮質の前頭葉に存在し、この部分を損傷するとマヒが生じることが実験的に証明されました。このような場所は一次運動野と呼ばれていて、運動指令を作り、脊髄を介してそれを筋肉に伝えるための中心的役割を担っています。前頭葉には、一次運動野以外にも運動の発現や制御に関わる領域が多数存在します。実は、これらの大脳運動野はサルを含む霊長類で発見、定義され、後にヒトで確認されたという経緯があります。つまり、大脳運動野に関する詳しい研究は主にサルを用いて進められてきたわけです。
パーキンソン病は、さまざまな動作を学習・記憶し、まとまった運動を滑らかに行うために重要な役割を果たしている、大脳基底核の働きが悪くなる病気です。パーキンソン病は、大脳基底核のひとつである黒質に分布しているドーパミン神経細胞が変性・脱落することによって発症し、身体が動きにくい、筋肉や関節が硬くなる、手足が震えるなどの重い運動障害を伴います。パーキンソン病の原因や病態を理解する上で、ヒトに近いサルを用いて、その症状を忠実に反映したパーキンソン病の動物モデルを開発し、研究に供することが必要不可欠です。
大脳運動野の機能についてはまだわからないことがたくさん残っていますが、サルを使った更なる研究によって、さまざまな疑問が解決されていくことが期待されます。また、パーキンソン病の発症メカニズムを解明し、それを克服する方策を検討するためには、今後もサルモデルを使って研究を進めていく必要があります。本セミナーでは、“霊長類の「運動する脳」”と題して、特に大脳運動野とパーキンソン病を取り上げ、その研究の歴史を振り返りながら、最近の成果をご紹介したいと思います。