第61回品川セミナー
平成27年6月5日(金) 17:30より
大串 隆之 (生態学研究センター・教授)
私たちとともにこの地球の上で暮らしている多くの生き物たち。彼らが織りなす生物の多様性はどのようにして生み出され、維持されているのでしょうか。これは21世紀の科学が解き明かすべきBig Questionと言えるでしょう。生態系の中ではいかなる生物も単独では生きていけません。他の生物を食べたり、餌をめぐって競争したり、助けあったり、さまざまな関係で結ばれています。このような生物間の相互作用が縦横に絡みあった「生態系ネットワーク」というタペストリーが、豊かな生物多様性を育む源なのです。これまで私たちは、生物間の相互作用を2種の関係から解き明かそうとしてきました。ところが、近年、第3種が介在すると生物間の関係が一変するという「間接効果」が明らかになったことで、生態系ネットワークの見方が大きく変わりました。この間接効果こそが、生物多様性の創出と維持の鍵を握っているという考え方が台頭してきたのです。たとえば、生態系の基盤生物である植物が他の生物(植食者)に利用されると、さまざまな形質が変わることで、植物を取り巻く生物の間に新しい相互作用が生まれることがわかってきました。本講演では、植食者が誘導する植物の変化が、生態系ネットワークをいかに形作るのか、それによって生物多様性がいかに生み出されるのかについて、最新の間接効果の研究を通して考えてみたいと思います。