第6回京都大学附置研究所・センターシンポジウム
「京都からの提言-21世紀の日本を考える」
工藤 洋 (京都大学生態学研究センター 教授)
季節を測る分子メカニズム
自然の中では、環境が刻々としかも複雑に変化します。植物は、こうした変動する環境下で生きるための様々な機能を持ち、それらを駆使して、葉を広げ、水を吸収し、花を咲かせて実を結びます。その機能が、少々の環境変動で誤作動していては、自然界で生きていくことは難しいでしょう。そのためこれらの機能を支える遺伝子の働きにも、自然の中で十分能力を発揮できるような仕組みがあるはずです。
遺伝子の研究というと、高度な設備が整った研究所の実験室内だけでおこなわれていると考えるかもしれません。しかし、分子遺伝学的手法の発達とともに、遺伝子を野外で研究することができるようになりました。それはまるで、飼育下でしか観察したことのなかった生き物について、はじめて自然条件での生態を観察するようなものです。まさに、「遺伝子の生態学」です。
本講演では、開花の時期を調節する遺伝子の「生態学」を紹介します。特に、植物が、数週間前に経験した気温を覚えているかのように、花の時期を調節することについてお話したいと思います。皆さんは、2週間前は温かかったか、寒かったか、覚えていますか?6週間前ならどうですか?
写真1:調査地に生育するハクサンハタザオ |
写真2:ハクサンハタザオの花 |