渡邉 翼
わたなべ つばさ
複合原子力科学研究所
(粒子線腫瘍学研究センター) 准教授
プロフィール
2009年京都大学医学部医学科卒業、附属病院研修医・放射線治療科医員、日本学術振興会DC1を経て2017年京都大学大学院で博士(医学)取得。ドイツフライブルク大学留学、京都大学複合原子力科学研究所助教、白眉センター特定准教授を経て現職。医師、専門医。大学院時代よりホウ素中性子捕捉療法を研究。
もっと詳しく知りたい方へQ1. どのような学生(高校)生活を送られていましたか
高校時代は「医学部医学科に合格して医師になる」ことを目標に、大学受験の勉強を最優先にしていました。親元を離れて寮生活を送り、テレビやゲーム、スマホといった娯楽はありませんでしたが、勉強の合間には読書をしたり、寮の友人と語り合ったりしながら、勉強優先の生活とはいえ充実した日々を過ごしていたと振り返ってみると思います。
Q2. ご自身の研究の面白さを一言でいうと!
ホウ素中性子捕捉療法の魅力は、物理学の法則を医学に活かした革新的ながん治療という点です。医学部や研修医時代に各科を見て回り、最終的に放射線治療科—放射線でがんを攻撃する領域—に最も魅力を感じました。放射線治療のなかでもこのホウ素中性子捕捉療法は従来の放射線治療とは全く異なり、
・中性子捕捉反応という物理現象
・ホウ素薬剤の投与という抗がん剤的な要素
・中性子照射という放射線治療の要素
これら複数の要素が一体となって初めて効果を発揮します。異なる分野の技術が協調して働くため、治療効果を高める戦略も多岐にわたり、改良と最適化の可能性が無限に広がっている点に、研究者として無上の面白さを感じています。
Q3. 講演でこれを伝えたい イチオシ
ホウ素中性子捕捉療法という特殊な治療の魅力と将来性
Q4. 進路に迷う中学生・高校生の皆様へ
進路の比喩としてまずは発生の話をします。発生学は、受精卵という1つの小さな細胞から始まって、わたしたち大人の体になるまでの成長のしかたを調べる学問です。受精卵は「なんにでもなれる細胞」で、まずは細胞分裂をくり返してたくさんの細胞になります。すると、それぞれの細胞は、神経になるものや、消化管(腸)のもとになるもの…などに変わっていきます。この「なんにでもなれる状態」から「それぞれの役割を持つ細胞」になることを「分化」と呼びます。
では、細胞はどうやって自分の役割が決まるのでしょう?
それは周りの細胞との位置関係や、周りから受け取る特別な物質(シグナル)によって決まります。同じシグナルでも、受け取る順番やタイミングが違うと、細胞の分化の方向も変わります。その微妙な違いと複雑性が、生き物を形作るときの不思議で深い仕組みなのです。
進路を決め、将来の仕事を選ぶことは、細胞が「何になるか」を決めるこの「分化」に似ています。感受性が高い中学生・高校生・大学生の時期の先生や友だちとの出会い、たまたま本屋で目にとまった本の一節、楽しい思い出など、時には嫌だった経験でさえ、さまざまなことがあなたの血肉になって、興味や得意なことを形づくり、やがて生き方につながっていきます。そしてその表れの一つとして進路という形で発露されるのかなと思います。
分化することは何かになることが決まると同時に、それ以外の何かにならないことを覚悟することと表裏一体です。何かになる可能性を捨てるという決断が必要な故に悩みも多いと思いますが、決めること、分化することを恐れず、自分の興味と関心という内なる声に正直に過ごしていればどんな形に分化しても後悔はないのかなと思います。
進路に何か一つの正解があるわけではないので、将来の不安、いわゆる効率重視のコスパ・タイパを求める誘惑、周りの人の言葉に流されないで、えいやと自分のやりたいことを決めて分化してください。







