野々村 恵子
ののむら けいこ
医生物学研究所 教授

プロフィール

静岡県で育ち、東京大学薬学部で神経科学研究により博士(薬学)の学位を取得しました。メカノセンシング(機械受容)の未知の生理的役割を明らかにすることを目指し、米国スクリプス研究所、基礎生物学研究所、東京工業大学を経て、2024年4月から京都大学にて研究を進めています。2021年のノーベル生理学・医学賞にも寄与しました。


もっと詳しく知りたい方へ

医生物学研究所HP 野々村先生研究室HP

学術変革領域研究(B)プレッシオ脳神経科学HP
https://pressio-neurobrain.org/
メカノセンシング生理学分野HP
https://www.infront.kyoto-u.ac.jp/laboratory/lab49/

Q1. 方法について、触覚の受容体の実態を調べる際に、遺伝子やmRNAを1つ1つ破壊して調べるとのことでしたが、具体的にはどうやって1つずつ破壊しているのですか。

mRNAを壊す方法は、RNA干渉(RNA interference、RNAi)と呼ばれる方法で、2006年にノーベル賞を授与されています。もともと、線虫という動物を用いた実験により発見された現象で、mRNAに対して相補的な配列を持つ1本鎖RNAが会合するとmRNAの分解が起こります。このため、mRNAの配列がわかっている場合には、それの配列に対して相補的になる配列を設計して、細胞に取り込ませることで、特定のmRNAを壊すことができます。

Q2. 手で何かを持っていたり、衣服を着用したりしている時に、ずっと皮膚に触れている際に神経にずっと電流が流れているのですか。(ex. ペンを持ち続けているときに、ずっとペンに接している部分から神経へ電流がながれているのですか。)

はい、そうです。皮膚触覚に寄与するPIEZO2陽性感神経にはいくつか種類があります。その中で指先などに多く、物に触れている間、ずっと神経に電流を流すことを可能にしているのが、PIEZO2陽性感覚神経に接続しているメルケル細胞という細胞です。メルケル細胞にもPIEZO2が発現していて、メルケル細胞と感覚神経の両方でPIEZO2が存在することにより、物に触れている間、持続的に感覚神経に電流が流れることが可能になることが、私の元同僚の研究によって明らかにされています(Woo et al, Nature, 2014)。

Q3.私は植物に興味があるのですが、以前、食虫直物のハエトリソウの閉合運動についての研究で、
①感覚毛によって獲物を感知する。2度刺激がないと閉合運動をしない。
②カルシウムイオン濃度が2度の刺激によって閾値に達し、閉合運動が起こる。
といった結果を見たのですが、これは動物のPIEZOと同じような機構なのでしょうか。植物のつるや感覚毛の触覚は、動物と同じ、または似た機構なのでしょうか。

私もハエトリグサのメカノセンシングの機構は、とても面白いと感じています!ハエトリグサのメカノセンサーチャネルはPIEZOとは別の物だと考えられています。私の元同僚の研究者がハエトリグサで発現しているメカノセンサーチャネルとしてFLYCATCHER1/2やOSCAという名前のタンパク質の研究を進めています(Procko, 2021,eLife)。研究の進展を私も楽しみにしています。

Q4. PIEZOについてはなんとなく理解できましたが、具体的に感覚を司る神経とPIEZOはどのように関わっているのか知りたいです。痛みも触覚の一つだと思うのですが、衝撃を受けたときにすぐくる痛みは一度PIEZOを通って脳が異変を検出してという順で痛みが伝わるのですか。不随などの病気ではPIEZOは破壊されていると思うのですが、PIEZOを治療できたら治るものなのですか。

実は痛みを生み出す機械受容の受容体はまだ見つかっていません。この受容体を見つけるべく研究が続けられています。痛みは多くの病気に関係する重要な課題なので、受容体の実体が解明されて、痛みの感じ方が調節できる薬の開発に繋がったら良いなと、多くの感覚神経研究者が考えています。

Q5.なぜPIEZOはあの形なのですか。PIEZO1の機能はわかっているのですか。PIEZO2の異常による臓器の病気はあるのですか。PIEZO2の臓器における役割は刺激を適切かどうか観測することなのですか。

PIEZOのあの扇風機の羽根のような形が「バネのような性質」を生み出し、機械受容の機能を実現していることが実験的に示されています。PIEZO1もPIEZO2と同じように細胞膜上で機械受容を担います。細胞の種類によってPIEZO2を発現しているもの(感覚神経など)とPIEZO1を発現しているもの(血管内皮細胞や赤血球など)に分かれています。PIEZO1/2の臓器における役割は、機械的な刺激の入力があるかないかをモニターするということで、臓器毎にその下流で引き起こされる生理的な応答が異なります。

Q6.人の話を聞くときに、音の振動が耳に伝わって音に反応すると言われていますが、その過程にPIEZOは関係しているのですか。(音量や音圧の把握など。)

聴力も機械受容を必要としますが、ここで受容体として働くタンパク質はPIEZOではありません。聴力では、聴覚細胞の生えている毛同士を繋ぐタンパク質があり、音(空気の振動)が到達するとこの毛が倒れ、その際に毛同士を繋ぐタンパク質に力が加わり、近くに存在するチャネルが開くことで「聴覚」が生じることが分かっています。

Q7.手の甲などは、毛の根本に皮膚触覚に関係するものが多いとありましたが、毛のない所は触覚が鈍ったりするのですか。

毛が生えている皮膚と毛が生えていない皮膚(手のひら、指先など)では存在しているPIEZO2陽性神経の末端構造や接続している皮膚の細胞が異なります。指先などは、触覚が特に鋭敏ですよね。毛が生えている部位では、毛を剃った場合に、PIEZO2が活性化しにくくなることが最近の研究により明らかにされています(Villarino et al., 2023, Neuron)。

Q8.患者さんのPIEZO2が欠陥しているのはどのようにして分かったのですか。どのようにして調べたのですか。

「幼い時から座る時に背筋が歪む」という症状の患者さんが病院へ来て、医師らが検査を行い遺伝子の配列を調べたところ、PIEZO2の遺伝子に機能が減弱する変異が見つかりました。その後、医師らが「PIEZO2に変異があるのであれば、皮膚触覚や固有感覚が減弱している可能性がある」と考え、皮膚触覚や固有感覚を調べる検査が行われ、これらの感覚に異常があることが確かめられました。

Q9.PIEZOは哺乳類にはあると仰っていましたが、哺乳類以外の生物にも触覚があると思うので、「PIEZO」があるのでは?と思ったのですが、どうなのでしょうか。

はい、哺乳類以外の生物、例えば魚や昆虫、鳥類でもPIEZOは存在しており、触覚に寄与していることが研究の結果、明らかにされました。生物種によっては、触覚にPIEZO以外の分子も寄与することが知られており、その仕組みなどの研究が現在も進められています。